<第五話>

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「あ、はい!ちょっとあたしからいいですかー?」  六十手前であろう彼女は、にやにやと笑いながら――ちらり、と視線を投げた。その先にいるのは先月入ったばかりの新入社員である福本皐月である。まだ二十代の、第二新卒で入ったばかりの女性社員は。怖々と竹田を見て目を伏せた。 「この間ね、福本さんが言ってたらしいの。仕分けみたいな仕事をなんであたし達がやんなきゃいけないのかわかんないって。他の部署の人にやってもらうんじゃだめなのーって。…そういう意識は良くないと思うわけよ。仕分け作業だって大事な仕事でしょ?社会人としてきちんとプロ意識もってやってもらわないと困るわ。もう学生じゃないんだから。他の皆さんも気を付けてね?」 「え…え?」  戸惑ったように竹田を見る福本。彼女は消え入りそうな声で、私そんなこと言ってません…と呟く。 ――おいおいおいおい…。  梨花子は卒倒しそうになった。竹田の話が仮に事実だとしよう。だとしても、それを何で朝のミーティングで言う必要があるのか。これでは明らかに晒し者ではないか。やっと仕事に馴れてきたばかりの新人をなんでそんな晒し上げる必要がある?どうしても納得がいかない、指導がほしいというのなら他の者が見ていないところでチーフの自分に直接言えばいいではないか。  しかもだ。竹田は今“言ってたらしいの”と言った。つまり――自分が聞いてもいないことを、さも現場で聞いたかのように皆の前で告げ口したということである。実際、福本は否定している。 「あー、違うわ竹田さん。正確には彼女、“この仕事がうちの部署に振り分けられているのには理由があるのか”って聞いてきたのよー。効率が悪いようにでも見えたんじゃない?」 「あー、なんだ?そういうことなのぉ?あたし、てっきり…ねえ。楽したい気持ちでそういうこと言ってるのかと思ってたわ。学生気分を仕事に持ち込むようじゃ駄目でしょう?」  隣の別の女性――多分その女性から話を聞いて告げ口しようと思い立ったのだろう――に言われて、なんだそうなのーと笑い始める竹田。おい、間違ってたのに福本には謝らないのか、と梨花子は段々腹が立ってくる。
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