<第二話>

2/6
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
 雪嶋柊一朗は、梨花子が新入社員の時からお世話になっている人物だった。  最初に見た時は随分若い上司だな、と思ったものである。外見年齢だけ見れば、梨花子より年下に見えてもなんらおかしくはなかったからだ。彼は若々しく、それでいて非常に落ち着いた人物だった。見た目も悪くなければ、女性社員達相手であってもけして見下すような態度を取ったりはしない。一人一人、丁寧に仕事を指導してアドバイスをくれるし、現場上がりということもあって指示も的確だ。女性社員には隠れファンも多いらしい、ということはひそかに聞いている話である。  だからこそ。――そんな彼と不倫関係にあるなんてことは、誰にも話せることではないのだった。話すどころか勘付かれるだけでもまずい。梨花子の所属するこの部署は、部長と主任を除いた全員が女性社員であり、大半が梨花子より年上のベテラン社員達だった。契約社員やパートタイムの女性もいる。仕事をするに至ってはそれなりに能力は高いが――昔から梨花子はどうも彼女達のことが好きにはなれないのだった。  梨花子本人が、酷い目に遭わされたわけではないが。――彼女達のコミュティは強固なものがあり、同時に非常に噂好きだ。悪意もなく、真実かどうかもわからない噂をバラ撒くのが非常に得意であると知っている。先日など、新入社員の一人が先輩の悪口を言っていたと大声で噂していて嫌な気持ちになったものだ。――いかんせん彼女達の場合、自分で聞いてもいないことをさも自分が現場にいたかのように話すから厄介なのである。  新入社員が発言した現場には梨花子も同席していた。彼女はただ、すぐいなくなる先輩がどこで仕事をしていたのか気になって他の先輩に尋ねただけだったのである。それが、いつの間にか“先輩がサボっていてズルイ!と自分の能力も省みずに言いふらしていた”なんてことにされてしまっていた。流石にぞっとしたものである。  女ばかりの職場で、人間関係が悪化することはそのまま作業効率に影響してくるものである。年配の女性社員にも良い人達はいる。噂好きな者ばかりではないし、人の悪口を平気で言いふらすような人間ばかりではないことは梨花子も知っている。それでもだ。――言いたいことがあるからハッキリ言え!という梨花子の性格からすると、彼女達の“気にくわない人間”への対処の仕方は実に陰険で、気持ち悪く感じてしまうものなのである。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!