限りなく黒に近いマリッジブルー

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 男がマリッジブルーだなんて。  それに自分が悩まされている、ということがそもそも恥ずかしかった。  浩之は三か月後に結婚を控えていた。  結婚後、妻を幸せにできるのか、という問いに対しては、それほどの心配はしていなかった。なんとかなる、と思えた。しかし自分が夫として、男として上手く振る舞うことができるかどうか、それが重要であり、悩みの種だった。  今俺を苦しめているものの正体、それは古くからの習慣にすぎない。  性差や性別の役割なんかで自分を縛るのは時代遅れだ。  浩之はこれまでに事あるごと公言してきたし、自らに言い聞かせるようにして心の中で唱え続けてきた。  けれどそれは彼がその習慣に捕らわれていることの裏返しであった。そこまで深刻に悩まなければならない原因、それはなんてことないことだった。浩之よりも婚約者の収入の方が多い、という至ってシンプルな原因であった。  劣等感のために余裕を失ってはっきりしたのは、古い呪縛を振り切れていない彼の本心だった。  古い習慣は上辺の主張よりも彼の感覚に深い根を張っていた。    結婚の不安にくよくよしている自分が嫌だった。男らしくない、と思っていた。しかしなによりも、悩みの本質が、自分のプライドと、惨めな立場にあることを悟られることが恐ろしかった。そのため浩之は自らの不安を誰にも話せずにいた。  そんななか、同僚から結婚の報告があった。  その同僚は浩之よりも二つ年下の山崎という男だった。  特に印象にない男で、いつも不景気な顔をしているな、というのが浩之の評価だった。  ただ結婚報告の一月ほど前から、さほど接点のない浩之に見て取れるほどに、山崎の様子は暗かった。とても結婚を控えている男の表情ではなかった。それでピンときた。  その日のうちに、浩之は山崎を食事に誘った。  もしも山崎が浩之と同じくマリッジブルーという恥ずかしい悩 みを抱えているのならば、男同士、打ち明けられる話もあるかもしれない。  安直だとは思った。けれど浩之にはほかに縋る相手がいなかった。
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