嫁修行

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空手と共に生きてきた経験は伊達ではない。 水拭き乾拭き様々な技術が、創業100年の旅館を磨き上げていた。 トキは、不満げだった。 「まあいいでしょう。ですが!それではただの掃除夫です!次は炊事!坊っちゃま好みの料理が作れなければなりません!最高の食材!最高の食事!良妻賢母の入り口は、味噌汁にあり!」 「すいませんが、私は客なんですが。着替えがないので浴衣も着れませんが」 「まあなんてはしたない!本当の良妻は服などいりません!エプロンは?!エプロンがあればよろしい!」 おぞましさを煮こごりしたような話になってきた。服を着るなとは暴走もはなはだしかった。 諫早は、断ろうとしたが、モノクルの視界の外でチラチラする巨城の石垣のような霊気の奔流が、異論を挟む余地を与えなかった。 それで。勘解由小路の声は冷たかった。 「この様は何だ?」 正座した諫早の横には、高級食材に対する言語道断な冒涜が並んでいた。 「トキも匙を投げました。ここまで酷いとは。しかし、食材は最高です。どうぞお召し上がり下さい」 言われて、勘解由小路は悩んだ。そもそも、食えるものがあるのか。悪魔除けとて絶対ではない。呼べば来るのがいる。戦部さんとか。
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