複雑な関係

2/2
前へ
/12ページ
次へ
「そのことだが、会社は辞めようと思ってる」 「何?」 「彼女とも話したんだが、結婚したら、輸入雑貨とワインを扱う店を始めるつもりだ」 「運転資金はあるのか」 「早期だと、退職金が若干多くてね。ドイツで築いたワイナリーとの繋がりがあるんで、日本で入手困難な銘柄を扱える。既に幾つかのレストランとも、内々に契約しているんだ」  いつか自分で選んだ輸入雑貨の店を開きたい――娘が描くフワフワした夢は、現実的で堅実な大倉の手で、2人の未来になろうとしている。  もはや俺に反対する理由はない。 「拓朗。いや、小倉さん」  沈黙した俺に、大倉は改まる。夕べの再現だ。次に来る言葉は分かっているが――今夜は逃げ出すまい。 「優雅さんとの結婚を、認めてください」  ああ……聞いちまった。  男親である以上、この台詞をいつか受けて立つ覚悟はしていたが、まさか親友(コイツ)の口から聞かされるとは。 「大倉」  固い眼差しに、更に緊張が加わる。  ――優雅が真優美の娘じゃなくても、惚れたか?  喉まで出掛かったつまらない勘繰りを、やや薄くなったウィスキーで押し流す。 「逆縁は、許さないからな」  呆気に取られたように瞬きをした後、大倉は安堵の笑みを浮かべた。 「肝に命じます、お義父さん」 「うるせえ。二度と呼ぶな」  軽く睨んで、俺はマスターに声を掛けた。程なく薄紅色のショートカクテルが2つ運ばれてきた。 「祝儀だ」  これは、親友としての手向け。全く、ややこしい関係を作りやがって。 「ありがとう、拓朗」  真優美が好きだったピンク・レディで、俺達は優雅の幸せを願って乾杯した。 【了】
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加