父親と息子

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「……俺、大吾おじさん、好きだよ。小さい頃から親戚のおじさんみたいだったし、家族になるのも自然っていうか」  ティッシュで涙を押さえつつ、息子の横顔を盗み見る。反抗的でも小馬鹿にしているでもなく、何故だか悲し気に見えた。  ――参ったな。 「姉貴にも、ずっと世話かけてきたから……幸せになって欲しいよ」 「そりゃ……俺、だって、同じだ」  1人娘だからこそ、優雅には幸せを掴んで欲しい。願わない親なんていない。  それに、子ども達には、苦労をかけてきた。特に優雅には、早くに母親が亡くなったため、中学生から学業と家事の両立をさせてしまった。きっと、もっと友達と遊んだり、打ち込みたい部活とかあったろうに。青春を削ってしまったという負い目が、俺の中にだってある。 「だったらさ……親父も覚悟決めろよ。いつまでも、俺らの母さんさせてたら、姉貴行き遅れちまうよ」  コイツがこんな生意気言うようになったのも、成長した証なんだろうか。クソ、親父の沽券を奪いやがって。 「……分かったような口を利くな」  漸く、逆流し(むせ)た水禍が収まった。1/4ほど残っていた水をペットボトルから直接飲んで、一息吐く。 「親父よりは、分かってるよ」  ゴミ箱にティッシュを放り込みながら、優太朗は素っ気なく言い返した。 「分かってない。アイツは俺と同い年だ。確実に、早く死ぬんだぞ」  伴侶に先立たれる辛さや寂しさは、誰より知っている。あの()にそんな想いは味わって欲しくない。 「やっぱ、分かってないよ、親父。今や国民の2人に1人が癌になる時代だぜ? 歳の順なんて、当てになんないよ」 「仮に長生きしたって、人生の大半を看病と介護に捧げるような生活をだな」 「いいじゃんか、それでも!」 「ばっ」 「姉貴達が、そんなこと、覚悟してないと思う訳?」  『馬鹿野郎』と否定する言葉を遮って、息子は俺を見上げた。真っ直ぐに。 「俺達の記憶の中の母さんは、半分以上病院にいただろ。それでも、俺達嫌じゃなかった。参観日にいつも来るのは親父だったけど、母さんに不満もったことなんて、ない」  ――絶句した。  息子のそんな胸の内を聞くのは、初めてだ。
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