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「優太朗まで懐柔されちまってな……生意気に、俺を説得するんだぜ……はは、参るよ」
『能ある鷹は爪を隠す』というが、彼女がその聡明さをひけらかすようなことは一度もなかった。そんな奥ゆかしいところも、恋愛に疎く、頭でっかちな俺達を夢中にさせた。
ガリ勉一辺倒の俺と違い、文武両道の大倉は、当時からモテた。それでも、数多のアタックを袖にして、アイツも真優美を一途に想い続けていた……。
高3の夏、俺達は一大決心をした。真優美に外泊許可が降りる、7月最後の金曜日。その夜は、地元の夏祭りだ。例年通り、祭りの締めには花火大会が催される。俺達は、正々堂々告白し、勝者は夏祭りデートに繰り出すつもりでいた。
『……ごめんなさい。2人とも素敵なんだけど、友達以上に見たことはないの』
あの夏――共に玉砕した男2人、夏祭りに駆け込むと射的を撃ちまくった。彼女に買うつもりだったリンゴ飴もヨーヨーもガラス細工の指輪も――全部直径13mmのコルク弾と消えた。
安っぽいぬいぐるみと駄菓子が入ったビニール袋をぶら下げ、河川敷でラムネを飲んだ。夜空に大輪の花火が広がるのを眺めながら、呆気なく散った真剣な恋に、少しだけ涙した。
大学進学後、俺は懲りずに真優美にアタックした。そして彼女が20歳になった翌日、三顧の礼を実らせた。
「お前がいたら……もう少し早く、優雅の相手が、分かってたかなぁ……」
娘のことを見過ごしていたつもりはない。ちゃんと気に掛けて、それなりに交遊関係にも気を配っていたつもりだった。
しかし、如何せん男親だ。悔しいが、女親ほど明け透けに彼氏の話を訊けるモンじゃない。
「子ども達には、幸せになって欲しいんだ。そりゃあ――アイツが優雅を不幸にするとは思わんが」
線香の煙ごしの真優美は、穏やかに微笑んでいる。亡くなる2年前、35歳になる前日にフォトスタジオを予約して撮したものだ。
『30代を半分も生きてこられた、ご褒美ね』
相変わらず色白で美しいが……本当は病のせいで青白い肌を、プロのメイクが色みを加えて上手く隠している。
この写真をいたく気に入った彼女は、『遺影に使って』と事ある毎に繰り返していた……。
『何言ってるんだよ。30代最後の君も、俺は楽しみにしてるんだ。5年後の予約だって済ませてきたんだぜ?』
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