夫婦の時間

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 病床の真優美は静かに笑っていたが――叶わぬ約束だと分かっていたのだろう。敢えて否定しなかった、彼女の気持ちが、年毎に切なさを増している。 「……勿論。アイツは、いいヤツだ。これまでのことも、感謝してるさ」  彼女を亡くした後、誰よりも俺を気遣い、支えてくれたのは、間違いなく大倉だ。  俺が出張で家を空ける時、子ども達の様子を見てくれた。俺が酷いインフルエンザにかかった時も、子ども達の隔離先になる傍ら、俺に食事を作ってくれた。本当に――掛け換えのない、いい男性(ヤツ)なんだ。  でも……何だって、俺の――真優美の娘を選んだんだよ。 「『覚悟を決めろ』、か」  夕べは、突然の告白に動揺した。  しかし、優雅(むすめ)の父親として、真優美の夫として、そして――長年の親友として、大倉という男と向き合わねばなるまい。 「大丈夫だ。俺達の愛娘を娶ろうってんだ。半端な想いじゃ許さねぇ。俺も腹括るんだ。アイツの覚悟ってヤツを、しっかり聞かせて貰おうじゃないか」  妻に向かって微笑むと、リビングに戻る。ソファーの背に掛かった革ジャンからスマホを出して、メールを2通送信した。
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