第四幕   ユングになれなかった男

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 あっさり観念して平伏する奴まで出たから、さすがにナミダ先生も苦笑したよ。 「あるある。自分の立場が危うくなると途端に命乞いする三流悪役、よくある」  ――そして、先生の無双が開幕した。  ステッキを振りかぶり、横に薙ぎ、すくい上げ、突き出す。  左の義足を軸にして、円を描くように立ち回り、敵をいなして行く。  そのつど暴漢が一人ずつ地に伏し、宙を舞い、横倒しにされて、泡を吹いて気絶した。  流麗な演武でも見ているかのような、素敵な杖術だった。  まるで舞踊だ。  暴力の血生臭さはそこになく、ナミダ先生の美しさと猛々しさだけが、この舞台を構成する全てだった。 (かっこいい…………って、あれ?)  ボクはいつしか、ナミダ先生に見とれていた。  おかしいな。ボクは体こそ女だけど、心は男勝りで、同性の泪先生が好きなのに――。    * ・使用したよくあるトリック/見立て、叙述 ・心理学用語/適応機制、攻撃機制、同一化、リビドーの変容と象徴、モーゼと一神教
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