あなたが欲しくて

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 乗換駅で別れる前に、彼女は丁寧に次のホームへの行き方を教えてくれた。私は何度もセンキューセンキューと礼を言い、男の子と手を振り合った。  今度は無事に乗り換えることができて、パリの地下を南下していく。  それにしても、優しい人もいるものだ。よし、次に東京で道に迷っている外国人を見たら声をかけてあげよう。  そんな前向きなことを思って、次の瞬間私は笑い出しそうになっていた。  次って、次ってさあ。  まさか、今の自分が「次」みたいな未来志向のことを思えるなんて。しかも東京でとか。ウケる。ビルの上からコンクリートジャングルど真ん中に突っ込もうとしてた人間が。あはは、あはは。  もっと、未来があると思っていた。  想像していたのは「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」の絵みたいな世界。東京には沢山の人がいるから、毎日が素敵な出会いに溢れていると思っていた。仕事はもちろん頑張って、休みの日には人やアートや、色んなものに会いに行くんだ。  有名になりたいとか会社を持ちたいとかそんな大層な野心じゃない。少し先にある楽しい未来を見続けるだけの、ささやかな願いだったはずなのだ。  それなのに、どうして。ダメだ、今日は特に情緒不安定だ。なんとか、さっきの女性に聞いた駅で立ち上がって、目元を歪めながら殺風景な地下を歩く。上から降り注ぐ光を感じて、そう言えば、駅から外に出るのはこれが初めてだと気が付いた。  地上に出た瞬間、私の涙腺は決壊した。
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