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道路の両脇を整然と埋め尽くす、白やセピア色の建物。もしかして、これがアパルトマンというものだろうか? 全部が石造りで、朝の穏やかな日光にきらきらと笑っている。私の行く手には赤い日よけがかかったカフェもあって、朝から多くの人が楽しそうに語らっている。セーヌ川の方向に向けて道は少しずつ広がり、東京のような高層建築もないから、青空がどこまでも続いている。
こんな美しい街が、この世に存在しているなんて。
せっかくこぼれてくれた涙を拭いたりはしない。滲む瞳を通して携帯の写真をぱしゃぱしゃと撮りまくる。おのぼりさんと思われても、知るもんか。ぐじゅぐじゅにメイクが崩れていく。変な子と思われても、知るもんか。まるで初めて街に出てきた女の子のように、私はうきうきと美術館の方へ歩いていく。
踊るような足取りで進めば、今だけは、舞踏会へデビューする少女なのだ。
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