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サラはレディバの言うことをよく聞いた。それが、この道中を乗り切る最善の手段だと分かっているようだった。人を運んだことはこれまでにもあったが、大体は自我が強く、レディバのようなレプティリアンに指図を受けるのはイヤだ、と口に出す者もいたが、この少女は態度にすらそれがなかった。レディバは、極力、彼女を子供扱いすることなく接しようとした。それが、彼女への礼儀返しのように思えた。
レディバが気をつけるべきは、彼女を害そうとする何かから守ることだった。あれだけの説明では、彼女の事情も、何が敵になるのかもはっきりしない。他人と会うなという指示も含めて、なるべく、この少女の動向を他人に知られたくない、ということだろう。この仕事は、そういう趣旨を含めての仕事ということだった。
彼女は、恐らく彼女自身の意図とは無関係に、他人の敵意にさらされている人間だった。そして、その敵意は、あらゆる手段を使って、対象に向けられることをレディバは知っていた。だからこそ、想定を超えた事態にも、迅速に対処できるよう、気を張り過ぎるということはない。
レディバは己の五感をフルに使って、脅威の接近に備えることを日頃の風儀としていた。
しばらく、鳥の鳴く声だけが辺りに響き、森を駆ける風の精霊が、木々を揺らしていた。影の中で瞑想していたレディバは、ふと、細いまぶたの中にある黄色い目をすっと動かし、木々の向こう側を見た。
「どうしたの?」
サラが尋ねた。
「音が聞こえる。」
「音?人間の?」
「分からない。だが、生物だ。」
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