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活き活きとした隼人の表情に、琴莉は微かな胸の痛みを覚える。
「どうしたの?」
顔に出したつもりは一切ないのに、隼人は琴莉の心の動きを読んだかのようなタイミングで声をかけてきた。ほんの一瞬の動きさえ見逃さない目ざとさに、思わず溜息が出る。
「……何でもないです」
「メイクしてる最中、僕の神経は全てメイクをしている相手に集中する。つまり、今は蔵本さんに集中してるってこと。ほんの少しの表情の動きも見逃さないよ」
手は動かしたまま、隼人が淡々とした口調で答える。視線はメイクをする手元を見ているが、心の中をじっと見透かされているような気がした。
仕方なく、琴莉は言葉を繋ぐ。
「本当に、この仕事が好きなんですね」
「うん」
「彼女にフラれてばかりでも」
「うん」
「無理してスケジュールをギチギチに詰め込んでも」
「うん。……言い方悪いけど、仕事っていうより、趣味みたいなものだから」
そう言って苦笑いする隼人だが、その意味は琴莉にもわかる。それはかつて、自分もそうだったから──。
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