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「私、また何か変なことを?」
隼人はふわりと表情を和らげ、首を横に振る。そして、喉をクッと鳴らしたかと思うと、クスクス声を上げて笑い出した。
「え!? やっぱり何か変なこと言いました?」
琴莉が慌ててまた見上げると、隼人は琴莉を正面に向かせ、耳元に唇を寄せる。
「蔵本さんのこと、もっと知りたくなってきた」
「……え?」
「自分の能力をそこそこでセーブして仕事をするってスタンス、それは本来の蔵本さんじゃないよね?」
琴莉はビクリと肩を震わせた。それを肯定と捉えた隼人が、間髪入れずに言葉を重ねてくる。
「昨日自分で言ったこと、覚えてる? 『私も好きだったのに』って」
「そんなこと……」
「休みがなくてもいいと思えるほど、好きな仕事があったんじゃないの?」
琴莉の表情が強張る。呼吸が浅く息苦しくなる。その様子に気付いたのか、隼人は小声で「ごめん」と一言呟いた。
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