03. 動き始めた運命の輪。

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「琴さん、販売員じゃないのに、そんなこともやっちゃうんですね」 「……まぁ、接客は嫌いじゃないし」 「そうなんですね! やったことあるんですか?」 「うん、前にね」 「へぇー!!」  デスクに座って事務仕事をやっている姿しか見たことがない祐奈にとっては意外だろう。  琴莉は苦笑しながら、鯖の味噌煮を口に入れる。『KIRISHIMA』の社食は、洋食だけでなく和食も絶品だ。 「隼人さんは上司だし、断ることなんてできないでしょうけど、素直に受けたんですか?」  何気ない祐奈の問いに、琴莉はギクリと肩を震わせる。 「え……あ、うん」 「ふぅーん。琴さんなら「それは契約には入ってません!」とか言ってもおかしくないのに」 「あはははは……そ、総務課だったらそう言ってるかもしれないけど、今は販売企画課の一員だし」 「そうか、そうですよね!」  納得したのか、祐奈はパスタを頬張りながら表情を緩ませる。変にツッコまれなくてよかったと、琴莉は胸を撫で下ろした。  本当は断りたかった。しかし、断れなかったのだ。何故なら──。
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