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「あの……隼人さん?」
「世話の焼ける上司としか思われてないのも癪だし、僕が上司でよかったと思ってもらえるようなことを一つくらいしておかないとね。しばらくおとなしくしてて」
そう言うや否や、隼人は手早く琴莉のメイクを始めた。化粧水をコットンに含ませ保湿、ミルクローション、美容液を素早く肌に浸透させ、ベースを作っていく。
琴莉は隼人の鮮やかな手つきに感動しながらも、鏡の中の自分がどんどん変わっていく様を目で追っていた。まるで魔法にかけられているようで、ただただ驚くばかりだ。
「なんか呆然としてるけど、大丈夫?」
隼人が微笑みかけてくる。鏡の中の隼人は、デスクにいる時とは全く違う、プロのヘアメイクアーティストの顔をしていた。
「あの……いつもと雰囲気違いますね」
琴莉がそう言うと、隼人は「参ったなぁ」と苦笑した。
「メイク中だからね。場所がどこであろうが、プロの顔になるよ」
和やかに話している最中でも、手は決して止まらない。流れるような動きに見惚れてしまう。
それに、プロとしての顔はもちろんなのだが、何より隼人の楽しそうな表情に釘付けになる。本気で楽しいと思っていることが伝わってきた。
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