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その日、いつものように散々遊佐に翻弄された堀越が、クッタリと遊佐の胸に頭をもたれさせたまま、よく働かない頭でとんでもないことを言い出した。
「遊佐さんて、その、えっち…すごい上手いけど……やっぱり経験豊富だったりするんですか」
堀越の髪を指で弄びながら、今しがたまで乱れに乱れていた愛しい恋人の姿を反芻していた遊佐は、一瞬、動きを止める。
が、すぐにまた髪の毛を指に絡めて、面白がるように答えた。
「まあ、そうだな…君の倍近く生きているから、それなりには経験していると思うが」
え!
と堀越が小さく息を呑む。
「俺の倍って……遊佐さんて何歳?」
食いついてきたのは、本題とは別のところだった。
「言ってなかったか?…39だ」
君がいつも言っているように、立派なオヤジだよ。
からかうように囁くと、堀越はつと顔を上げて、遊佐の顔を見つめた。
「30代前半かと思ってた……遊佐さん、肌もスゲー綺麗だし顔立ちが整い過ぎてるから、ホント年齢不詳です」
「あまり若く見られるのも、仕事に支障があったりするんだが……桔平にそう見られるのは素直に嬉しいね」
年の差が縮まれば、君との距離も近くなる気がするからね。
「ところで、私の経験が気になるということは、過去に対して妬いてくれたりしたのかな?」
遊佐は、本題に話題を戻す。
この可愛い恋人が、遊佐のことを知りたがるのは初めてだ。
押して押して押しまくって、なし崩し的に強引に手中にしてしまったわけで。
本人は、遊佐のことを好きになっているつもりのようだけれども、実際のところ、遊佐の顔と声と身体が与える快楽にいいように籠絡されているだけに過ぎない可能性が否定できない。
別に、顔や声や身体に籠絡されて側にいるのだとしても、結果的に堀越が遊佐の手中にあることには変わりがないのだから、全然かまわないのだけれども。
遊佐のことに興味をもって、もっと知りたいと思ってくれるのなら、それはそれで非常に嬉しいに決まっている。
電話番号を教えても、自分からかけてくることなんてほとんどないし、遊佐の自分では見えないところにあるほくろの位置は知っていても、彼が何歳なのかなんていう基本的なことすら、堀越はたった今知ったわけだ。
もっと言えば、彼は、遊佐が何の仕事をしているのかさえ、未だに知らないままである。
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