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「なあ、ちょっと待てって」
立ち去ろうとする華の腕を、俺は力強く掴んだ。
その腕に雪が舞い落ちて、静かに溶けて流れていく。
華の腕はこんなに細かったっけ、とふと思う。彼女の少し生意気な視線を、丸くて幼い声を、ちゃんと正面から受け取ったのはいつだったか。
「なに……」
涙と鼻水にまみれた華の声は、開きかけていた俺の唇を氷らせた。
今まで何度泣かせたんだろう。
何でこんな風になるまで気が付かなかったんだろう。
せりあがってくる後悔をぐっと堪え、俺は華のちいさな背中に訴える。
「ちゃんと俺の話、聞いて、……頼むから」
私の話、ちゃんと聞いてよ。
記憶の先で、苦しそうにそう呟いた華の声が甦る。
あのとき俺は、華になんて返したんだんだっけ。
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