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華は振り返らない。
俺の声は届かない。
クリスマスはもうとっくに終わってしまった。
俺の家には、華がいつか欲しいと言っていた腕時計と、それに添えた手紙がひっそりと取り残されている。
自分でも驚くほどに、俺らしくない言葉がたくさん詰まった華への手紙。
何度も何度も書き直した、彼女への祈り。
「さよなら」
しんと静まり返った真夜中の空気に、華の吐く白い息が溶け込んで、消えていく。
彼女はいつか俺が似合わないねと言った、真っ黒いコートに身を包んでいる。
-end-
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