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「あんたがおかしな存在だってことは信じてやる。ただ一つ教えてくれ。」
この時の俺はすがるような思いだった。誰かもわからない、しかもとびっきりおかしな能力を持った老人に、でもそれでも聞くしかなかった。
「どうやったら生き延びられるんだ?」
必死だった。体の奥底から生物の本能であるかのように生きたいという言葉が溢れた。
「まあ、落ち着いてくださいませ。」
その懇切丁寧な敬語が俺をたしなめるかのようで逆に頭にきた。
「この状況でどうやって落ち着けんだ!!!」
その言葉と一緒に老人の着るタキシードの襟に右手を伸ばし掴みかかった。右手は老人をすり抜け老人は煙のように緩やかに姿を消した。
「んな!?」
すると後ろから、
「ご心配なさるな、貴方様には生き延びる術がございます。」
「どうすりゃいいんだよ?」
「夢の中で死ななければ良いのです。」
「追いかけられるのから逃げ続けりゃいいのか?」
「左様、朝まで、逃げ切るのです。」
「そうすりゃ生き延びられるんだな!?」
「はい。」
「わかった。ぜってぇ生き残ってやる!」
「貴方様を見ているとあの方を思い出してしまいますな。」
老人は楽しそうに懐かしそうに笑う。相変わらず不気味だが。
「あ?誰のことだよ。」
「いずれお話しします。楽しみは取っておくべきでございます。ですのでくれぐれもお死ににならぬようお願い申し上げます。」
「はぁ、人の気もしらねぇで。」
「貴方様なら何か起こすかもしれません。期待しております。では、またお目にかかれる日を楽しみにしております。」
「・・・!」
そう言い残し老人は今度は一瞬にして消えた。まるで最初からいなかったように。
「はぁ、夢じゃねぇんだよな。」
ぐっしょり濡れて少し冷えだしたシャツが俺に現実を教えた。
おかしい、そんなのはわかる。いくら俺がバカだったとしてもそれぐらいは理解し得る。トラウマにもなりそうな夢を見ただけならまだしも、目が覚めたら変なじいさんに余命宣告されるなんて。だが、この状況を少しづつ理解し始め納得する自分がいる事に気付き驚いた。
しばらく考え込んでいると、自分の携帯電話がけたたましい音を鳴らした。急いで折りたたみ式の端末を開けのぞき込む。そこには友人であるディオと書いてあった。ボタンを押し耳に当てる。
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