Second day【Ⅱ】

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Second day【Ⅱ】

ディオ曰く、俺は疲れているらしい。果たしてそうなのだろうか、疲れたらあんなに恐ろしい夢を見るなら、より一層追い詰めていることになる。え、なんだよMなのか俺。なんかやだよ。なんか。 ため息混じりにデスクに齧り付いている、それもこれもあの夢のせいで、まず部長に絞られ、昨日ちょっとだけ残して明日しようと置いていた仕事をまず終わらせなければならなくて、もう最悪。え、何?最後のは自業自得?知るか。 「ふぅー。」 ため息混じりに頭も搔きはじめた。 「よう、遅刻野郎」と鼻で笑いながらこちらにくるこの嫌な男で色男なこいつがディオーラ・ケイトだ。俺はディオと呼んでいる仲だ。彼は俺と同期で彼はつい最近「結婚した」。彼の結婚式はとても華やかなものだった。様々かつ色とりどり料理や、新郎新婦の思い出などこの光景をハンナと同じ位置から見ることが出来たらとそんな淡い期待が胸をそっと撫でるそんな夢を見させてくれる非常に素晴らしい式であった。しかし結婚したらこいつは急に態度を変え俺をやれ「結婚してない」だの言ってからかい始めて最近にはほんとに俺を心配したのか意見を翻し「いや、結婚は人のペースだしな」などとぬかしている。ここまで見事に人は手のひらを返すことが出来るのかと感心したものである。 「お前が遅刻なんて明日は雪か?」からかうように肩をぽんぽんと叩いてくる。つい先程こいつは遅刻してきて部長に怒られる俺をゲショゲショ笑っていた。いや、お前の笑い方の方が面白いからね?と思ったのは記憶に新しい昼前の事である。今は昼休みだ、俺は今日起きた不思議な体験について自分の持てる全ての想像力を用いて考えていた。が、めぼしい回答を得られずにいた。そして横にはまだ俺をからかう相棒がいた。ん?いつ相棒になった?まぁいいや、その相棒と俺は屋上にてタバコをふかしながら、ひとときの安らぎと現実への階段を降りていた。 「結婚したってのになんか、かわんねぇな。」 この言葉が離れない。ただの談笑において、どちらが言ったかも定かではない戯言も時として心に残る事がある。学生の頃、それもまだとびきり小さい学生の頃俺は当時の教師に「君は文章の才能があるから、小説家になれると思うよ。」頭について、いや、嫌な言い方をしよう。こべりついてるのだ、理性が違う方へ足を誘ってももう片方の足をつかみ股を引き裂こうとしてくる。おっそろしい事だ。蓋を開けてみたらどうだ無精髭を少し生やした情けない男がいるじゃねぇか。今日も今日とてクマを蓄えて、電話越しの顔も見えないやつに対しても笑顔を振りまく毎日。それが俺の幸せらしい。これが俺の幸せ、、、か。否定出来ねぇな、正直な話、こんな奴が生きながらえてるだけでも幸せなもんだし、オマケにかわいい彼女もいて、そんなこんなで感じる苦労も時に幸せを実感させる。いわば起爆剤なのか。そんな事を思いながら2本目に突入しようと思った矢先一瞬口元を触ったタバコが無くなった。「ふぇ?」と情けない声を出したのもつかの間。「2本目でしょ」と言われ誰かわかった。こいつはエリス・ミラー。俺らは基本この3人で行動することが多かった。同期であるのと同時に気を許せたのは大きかったのかもな。男っぽいし。誰だよそんなこと言ったの。 「んだよ、いいだろ別に。」 今朝の件から色々あって遅刻して来た身にも関わらず会社の誰よりも疲れている自信があったため、少し苛立ちを隠せなかった。「ダメよ。」しかしこの毅然とした者には通じないのである。そう、これは毎日の日課のようなことなのである。別に特別なことではない。 「こんなもの吸ってなんになんのよ?」 「そりゃお前、あれだよ気分転換だよ。」 「遅刻してきた分際で気分転換だなんだって甘えてるのね。」 そうである。これが俺が男っぽいと思う。真たる所以なのである。ちょっとボールを投げたら理屈と論理のセメントで固めまくったボールを投げ返してくるのである。 「ヴェクター、お前の負けだ。」またしても屈辱の肩ポンである。(肩ポンとは先程オフィスで受けた屈辱的な肩ポンポンである。屈辱的なので蔑称をつけてやった。) 「ったく、母ちゃんでも、彼女でもねーんだから口出しすんじゃねーよ。」とため息混じりにこぼすと。 「勘違いされるような言い方しないで。母さんや彼女なら心配とかの理由だろうけど、私はただ単にタバコの煙や匂いが嫌いなだけよ。」 出たよ、またパンチ来たよ。じゃあ、ここ来んなよ。と言いたくなったがこれ以上疲れるのはゴメンだと思い。有耶無耶にした。 「で、今日は何でおくれたの?」 「彼女が追っかけてきて、目が覚めたら部屋に知らないおじさんいてそのおじさんと言い合いしてたら遅れたらしい。」事細かにさも俺がおかしい奴のように語るディオは悪意に満ちた微笑を浮かべていた。 「おい、まて確かにそうだけど、全然間違ってないけど悪意ない?」 「あんたそれ病院行った方がいいんじゃない?」 誰だってそう言うだろ。わかってますよ。 「あー、まぁ続くようなら行ってみるわ。」 そろそろ午後の業務の時間だ。 「もう行くけど今夜どうする?ヴェクターお前久しぶりにこの3人で飲まねぇか?」 「ああ、いいぞ。」 「私も」 「決まりだな。」 「お前カミさんとかいいの?」 「言い方古くない?」 「大丈夫。もう言ってある。」 「なんで決まる前にいってんだよ。」 「どうせお前、疲れてんだからたまには飲まねぇとな。」 こういう所がくえない男なのである。
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