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エピローグ
「はい、最高級カルボナーラ」
「最高級って冷凍パスタ、チンしただけだろ」
「まあまあ、俺もちょい早く帰ったばかりだかんね。それに、颯斗も洗い物少なくて済むでしょ」
家事とか、そんな事で揉めたくないから、早く帰った方が洗濯物を取り入れて晩御飯の準備。後から帰宅した方が、夕食後の洗い物と翌朝に洗濯して干す。
そう決めた。
朝と昼はそれぞれ出勤時間も違うので各自。
掃除は丸い機会が自動で充電しながら、フローリングの床を綺麗にしている。
暮らしは、上手くいっている。
「あ、明日はマニア飲み会だから夕方出掛ける。晩御飯は各自ね」
「またすんのか?」
「この前のは新年会だから、もう半年前だよ」
「いやいや、1年に2回って充分多いだろ。お前らの学年はほんと仲良いよな。まあ、女子達はお前目当てかもしんないけど」
「心配?」
「何が?」
「俺が浮気しないかとか」
「そんな心配しねーよ」
「何で?」
「だって、お前は俺の事めっちゃ好きだろ」
「うわーどっからくんのその自信」
「サークルに入部した初めから、先輩先輩って俺につきまとってたじゃん。付き合ってくれって言ったのもお前からだし」
「颯斗が俺に好き好きビーム出す割に奥手だから、俺から言うしかなかったんでしょうが」
「はいはい、そういう事にしとくよ」
翌土曜日の夕方、同棲している颯斗の恋人大原貴文は、大学時代の同じ学年だったサークル仲間との飲み会に参加するためマンションを出た。
颯斗はベランダから駅に向かう貴文を見る。
貴文が振り返った。颯斗に気づいて手を振る。
見てた事がバレて恥ずかしい、でも気づいてもらって嬉しい、そんな複雑な気持ちで颯斗も貴文に手を振り返す。
貴文は更に大きく手を振って、そして駅に向かって走り出す。
眩い夏の夕日の中、長い手足で軽やかに走るカッコいい自分の恋人を姿が見えなくなるまで追う。
今もあざやかに思い出す。
青空をバックに弧を描いて放り投げられたあいつの鞄。
長い手足が編み出す流れる様な美しい動作で足を踏み込み、跳躍する貴文。
自分が、同性の貴文を好きなんだと自覚し、そしてそんな自分の気持ちを受け入れたあの日。
貴文。
あの時も今もこれからも、ずっとずっとお前に恋してる。
fin
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