第2章

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「我がサークルはスポーツ関連に弱いですよねー。ちょっとグラウンドで実際の動き見ながら、スポーツ関連縛りのクイズを出し合いしませんか?」 ある日、貴文がそう言い出した。 やっぱ大原君良いこと言うよね、なんて女子部員は早速賛成。皆でぞろぞろグラウンドに向かう。 「大原君、何かスポーツしてた?」 女子部員が聞く。 「クラブには入ってなかった。クイズに夢中だったし」 「へー運動得意そうなのに」 「球技は人並みかなぁ。でも陸上系は得意だったよ。リレーとかは陸上部に混じって毎年クラス代表だった」 「やっぱり、ただのクイズオタクじゃないんだよね」 女子部員の言葉に、ただのクイズオタク達であるサークルメンバーは小さく傷つく。 「あ、走り幅跳び。俺、あれも得意なんですよね」 グラウンドの隅の幅跳びエリアを見て貴文が言う。 貴文の言葉につられて、颯斗も今は誰も使っていない幅跳びのエリアを見る。ふいに貴文の声がした。 「先輩!」 振り返ると、鞄が青空をバックに弧を描いていた。 貴文にとっては同じ1年以外全員が先輩。 しかし、鞄は明らかに颯斗に向けて飛んで来た。 反射的に受け取る。 「持っててくださーい」 あいつの声がする。 同級生の1年はたくさんいるのに、なんで先輩の俺に持たせるんだよ、という言葉をかける暇も無く、貴文は颯斗達から離れて行った。 「いきまーす」 そして今度はこっちに向かってくる。 陽の光に透けて普段より茶色がかって見える髪が跳ねる。長い手足が編み出す流れる様な美しい動作で足を踏み込み、跳躍する。想像よりもずっと遠くに着地すると、再び振り返り笑顔を見せた。 「ね、得意だって言ったでしょ」 違う、あり得ない、そう封印していた想いが青空をバックに弧を描いて飛んだ鞄のように解き放たれる。 ああ、俺はあいつに、恋してる。 「ありがとうございます」 鞄を持った颯斗のところへ貴文が来た。 「何で先輩の俺に鞄を持たせるんだよ」 気持ちの動揺を悟られまいと、わざと颯斗が睨むと、貴文は微笑んで言った。 「だって、颯斗先輩に持ってもらいたかったんです」
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