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プロローグ
「先輩!」
振り返ると、カバンが弧を描いてた。
青空をバックに弓なりに自分の方へ向かって来る。
反射的に手を出すと、両手にずっしりと重みが伝わった。
「持ってて下さーい!」
白い歯が印象的な爽やかな笑顔を見せて、あいつは挨拶がわりに軽く手を上げた。
「えっ…ちょ…おい!」
人の返事も聞かず、去って行く。ある所まで行くと立ち止まった。
「行きまーす」
今度はこちらに向かって走って来る。陽の光に透けて普段より茶色がかって見える髪が跳ねる。長い手足が編み出す流れる様な美しい動作で足を踏み込み、跳躍する。想像よりもずっと先に着地すると、再び振り返り笑顔を見せた。
「ね、得意だって言ったでしょ」
あり得ない、違う、厳重に封印したはずの気持ちが、弧を描いて飛んだカバンのように青空に解き放たれた。
俺は
俺はあいつに
恋してる。
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