一章 

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 振り返る事なく暗闇の中を走り続けた。  走って、走って、走った。  途中で足がもつれ膝から倒れ込む。息苦しさが続く。荒い息遣いで肩が揺れる。やがて見上げた先の光景に既視感があった。  どこか不満げな表情の顔は学生時代の俺だった。驚く間もなく過去の俺自身の唇が動き出した。俺は倒れ込んだまま動けない。動かない。 「勉強も運動も努力した。友人も増やした。周りの大人達の視線も気にした。後は何をしたらいいの?」  過去の俺自身が今の俺を見下ろしていた。表情はひどく退屈そうで、不満げだった。  俺は俺自身に投げかける答えを持ち合わせていなかった。  学生時代の俺の周囲に人の姿が増えていく。俺を中心にして表情の無い存在だけが無尽蔵に増えていった。  その場にいる全員が俺を背にして歩き出す。学生時代の俺と倒れ込んだままの俺自身を置き去りにしていった。 「あの、どうして一人なんですか?」  退屈そうに不満げで心底疑問といった表情だった。俺は答えられない。自ら選んだ選択を過ちを告白出来ずにいた。  答えを待たずに若い頃の俺は歩き出していた。足取りは酷く重たそうだった。
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