一章 

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 周囲に散乱する血みどろの光景に人の姿があった。  深々と被る鍔の広い帽子に随分と(しわ)寄れた上着が印象的だった。手には布地が張られていない傘の骨組みが握られているように見える。しかしすぐにそれが違う物であることに気づいた。拳が添えられている柄の部分の先には銀色の刃が覗き七条の刃が紡錘状となって上空を向いていた。  それは二次元の映像や空想のお伽話の世界でしか見たことの無い槍のような武器だった。すると自身に向けられる視線に気づいたのか血溜まりに立つ人影がこちらを振り返った。一瞬の緊張が(はし)った。  恐らく年上の男性だろう。三十から四十代の間の穏やかな表情。くすんだ金髪に碧眼の瞳が印象的だった。  まるで映画や漫画の物語の幕開けを告げるかのような倒錯的な光景に俺はただ硬直し固唾を呑んでいた。 「思ったより早く目が覚めて結構。だけどま~だ身体が痛むだろう? そうだ早速だけど君の名前は?」  男の間の抜けた飄々とした口調は普段からの様子なのか、こちらを警戒させない為なのだろうかは別として意図的に作ったぎこちない笑顔を表情に貼り付けていた。 「お……ま……。えッ、タ……」  逢間瑛太(おうまえいた)と言う筈が未だに全身に訴えかける疼痛によって口ごもる。 言葉の終わりに咳が続き、痛みで呼吸が僅かに乱れる。 「あー、無理はしない方がいいよ。起きたばかりで辛いだろうからね。オルマ・イェッタ? オーマ・エスタ? 悪いね聞き慣れないのは訛りかな? まぁ、こんな場所だけれど少し楽にしておくといいさ」
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