一章 

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◇  見覚えの無い場所に緑の梢の連なりが続いていた。ここは人と亜人と呼ばれる種族の境界線と認知された場所らしい。 「こんな所に来る人は普通はいないさ」とガインは言う。  なぜ俺はここに居てなぜあなたはここに──とは続けなかった。それどころではかった。  俺が知らない世界でそして眼前の光景には見たことの無い生物が群れとなって現れていた。  それは二足歩行を体現した異形の姿だった。筋骨隆々に盛り上がった肢体に女の腰程はある図太い腕の先には石器を括った斧や槍を持ち歩き、その切っ先は赤黒い染みが滲んでいた。  思ってる以上に冷静なのは、恐怖以上に予想もしない状況にいるからなのだろうか。  それらは厚い胸部の上に牛や豚に酷似した獣の顔に人の雰囲気を足した様な顔面を為していた。  眼窩(がんか)に収まる双眸には底冷えする暗い色と憤怒と憎悪を等分に合わせた闇の色。喉を鳴らし、獣特有の獰猛な唸りがより一層の不気味さを感じさせた。  それらがすぐにガインが言っていた亜人と呼ばれる種族。大鬼(オルグ)豚鬼(オーグ)と呼ばれる存在なのだと傍らに立つ、ガイン・メルフレメに問う前に俺の脳内が答えを導いていた。  同時に最大限の警鐘を鳴らしていた。  息が詰まる感覚。これが恐らく殺気を感じるということなのだろう。 「やれやれ、予想はしていたけど思ったより数が多いな」  顔だけを動かしてガインが俺の様子を見た。男の表情は物憂いに見えたが細い目の奥には焦燥は無かった。 「最初の襲撃は亜人の中でも比較的若い集団だったからねえ。斥候が戻らないから本命がお出ましだよ」 「い、いや。逃げな……」  狼狽しそうな自分の言葉を、その先に続けなければいけない台詞(せりふ)を俺は飲み込んだ。  この身体で逃げる? 満足に動く事も出来ない体で?
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