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闘う選択肢は無かった。護身の武器も無ければ逃げる足も今は無意識に震えていた。何より学生時代の喧嘩や取っ組み合いの類いで収拾が着く相手ではないのは目に見えていた。
旧時代に使われるような粗末な武器でも異形の怪物の巨腕から繰り出す一撃を想像すれば怪我で済まないのは至って簡単な思考だった。
目を逸らせば、僅かに動きでもすれば今にも強襲されてもおかしくない距離。到底言語を交わして穏便に事が治まる輩ではないだろう。それなら、浮かぶ選択肢は一つだった。
「俺を置いていって下さい」
囮。と言う作戦ではなかった。それは単純に置き去り、見捨てろ。と言い放つ言葉を変換した物に過ぎなかった。
疑問を含んだ眼差しが向けられる。表情には僅かな驚きような表情が含まれすぐに漂白されていった。
「君は助けてくれとは言わないんだね」
「あなた一人なら逃げることは可能でしょう?」
救いを請う為の台詞はこの状態では余りにも身勝手な言葉に思えた。
「君が言うように僕一人なら逃げれるね。でも君は? その体で戦うとでも言うの? あまりお勧めしないけど?」
どこまでも正当で俺を試すような皮肉だった。それでも俺は続けるしかない。
「本来なら死んでいてもおかしくない状況が前後しただけだ」
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