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いつしか、怒号は止んでいた。
陽炎のように揺らぐ異様な空気が穿たれた壁の穴、破砕した樫の扉から抜けていく。
床には輝きを失った夥しい数の宝珠達が踏み砕かれ粉々と砕けた壁と紙片に混ざり合っていた。
静寂を縫い破り騎士たちの間を抜けていく姿が一人。
隊列の長らしき人物が法衣の者の表情を覗いた。
一拍の間を置き屹然と戦闘軍靴の踵が反転。指示を待つ部下達に退却を示していく。表情は鎧兜の面頬によって読み取れなかった。
やがて床に手が延ばされた。
それは新月の描かれた一冊の書。
床に晒された書は再び閉じられた。
凄惨な部屋を出る途中に隊列の長は自らの長槍の峰の部分。本来五カ所全てに嵌められる宝珠の装填部に亀裂が施されていた事に気付く。
足下には色彩を放つ宝珠が嵌められた長槍の一振りが乱雑に床に転がっていた。
それを手に収め幾度か感触を確かめた後に用済みとなった長槍を床に投げ捨て、やがて男は部屋を後にした。
床に落ち硬質な音を響かせて長槍の装填部分が完全に破壊された。
鋭利な断面を覗かせていた筆は部屋からその姿を消していた。
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