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第一話 聖母
昭和二十五年の秋。私は夫の故郷である『輪廻村』へと足を運んでいた。
それは旅行や観光ではなく、夫婦揃って東京からこの輪廻村へと移住をするためだ。
「確かに周りには何もないけど、すごい自然ね。東京じゃ味わえない景色!」
私、火村 秋乃は東京では決して味わうことのできない大自然を前にして子供のようにはしゃいでいた。
噂には聞いていたが、秋にはこの村一帯を覆う紅葉が村を深紅に染め上げる。
絵画のように美しいと同時に、その深紅は周辺に血を塗りたくったようにも見えて……私は少し妙な予感を覚えていた。
「だろう? 娯楽は少ないけど、君もきっと気に入るはずだ」
その様子に、夫である火村 文也も微笑んでいた。
東京で働き詰めだった頃ではこのような夫婦水入らずの時間も持てなかっただろう。
だからこそ、私たち夫婦は輪廻村への移住を決意したのだ。
「じゃあ、まずは僕の実家へ行こう。両親には連絡してあるから」
急な引っ越しだったのでしばらくは夫の実家にお世話になる事となっていた。まずはそのための挨拶に向かうため、私と夫は紅葉の景色を楽しみながら車で先を急いだ。
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