第三話 悲劇

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「あの奇病の被害者は今でも村人の中にはいます。あなたの身近な方なら文也様のお母様・裕子様がその一人。彼女たちが負った心の傷がどれだけ深いか、同じ女性の秋乃様ならお分かりいただけるでしょう。今、秋乃様が奇病の事を掘り返せば、癒えかけの傷を再び抉る事となってしまう」  女性としての生殖機能を失う……それは、女としての幸福を失うに等しい。愛する人との子も産めず、我が子を抱くことも叶わない。これがどれだけ残酷な事か、私にだって理解できる。  私が今、お腹の子を失うなんてことがあれば……自信を保っていられる自身が無い。 「……けれど、明確な原因も奇病の実態も何もはっきりしていないのですよ。それに、またこの村で奇病が発生する可能性だって……」 「それはありません。だって、私が巫女の祈りで邪気を払いましたから」  真理亜は再び笑顔を取り戻し、そう答える。  自身の神聖を疑う様子など一切ない、無垢な笑顔だった。 「そうではなく……医学的な観点から」 「……私の事が、信用できませんか?」  真理亜の低い声が私に突き付けられる。  表情は笑顔で塗り固められていたが、その声には温度は無かった。 「それは……」 「お、もうこんな時間や! おい男共はそろそろ支度せぇ。日付が変わる頃には神社に集合やぞ、遅れるな!」  私が言葉に詰まっていると、村人の一人が時計を指して立ち上がって叫んだ。  時刻は既に二十三時。気付かないうちに随分と時間が経過していたようだ。 「……秋乃様、私もこれで失礼致しますね」     
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