第一話 聖母

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 料理は得意な方では無かったが、これから母親になるのだからそんなことは言っていられない。私はお母様の猿真似だったが、何とか料理の盛り合わせを終えた。 「秋乃さん。もう料理はいいから、夕食前に『これ』に着替えて真理亜様の所にご挨拶しに行きなさい」  お母様は箪笥の中から深紅に染まった美しい着物を引っ張り出してくる。 「真理亜様……って、どなたです?」  聞いたことのない名だった。確か夫の親戚の仲にもそんな名の人はいなかったはず。  それに、わざわざこんな派手な着物に着替えてまで会いに行く人物と言うのは、一体何者なのだろうと不思議に思う。 「全く、あの子ったら……まだあなたに話していなかったのね」  お母様は居間で酒を飲む夫・文也を横目に、呆れたようにため息をつく。  夫は全く気付いていない様子だ。 「村の名家・御池家が管理している神社に向かいなさい。行けば真理亜様の事は教えていただけるでしょう。それと、くれぐれも粗相の無いように頼みますよ」 「は、はぁ……」  お母様に着物を渡され、私は意味もわからないまま着物に着替え、神社へと向かわされた。  そして、この夜が私とあの少女……御池 真理亜との出会いだった。   
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