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他に部屋なども見当たらなかったし、今までの廊下はこの部屋へたどり着くためだけに造られたのだと理解した。
そして、この重厚な扉の先に……『真理亜様』が座しているのだと思うと、私は少しばかりの緊張を感じずにはいられなかった。
「失礼致します。本日、東京から起こしになられた火村 秋乃様がお見えになられました」
そんな私を尻目に、社務所の男は縦横な扉に手を掛け、徐々に開いていく。
扉の隙間から、怪しげな光が漏れ始める。その光に私は思わず目をくらませる。
『……おや、お客様ですか』
「はい、本日、東京から引っ越されてきた。亡くられた御池先生に代わって、ご夫婦で診療所を続けてくださる予定の……火村 秋乃様です」
光と共に凛とした少女の声が響き渡る。真理亜と言う名から女性であることは想像していたが、まさかこんな幼い声の少女だとは思ってもいなかった。
そして、扉が全て開いた時……部屋の中の少女・真理亜様が姿を現した。
「あら、あなたが秋乃様? 文也さんは随分と素敵な方をお嫁に貰ったのですね」
現れたのは、人形のように可憐な少女。艶やかな黒髪に艶やかな着物に身を包んだ美しい少女が殺風景な和室に正座していた。
年齢は十五歳程度だろうか、態度は毅然としているが、やはり雰囲気は幼い。
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