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「階段から落ちて、血がいっぱい出たの……きっと、お腹の中でぐちゃぐちゃに潰れた。痛くて、苦しい思いさせちゃった」
「少し落ち着け……」
「落ち着いてなんていられない! 昨日、神社の本殿でしていた事……知っているんだよ?! 全部……」
私の言葉に、夫は表情を一変させる。
本来は真理亜様以外の女性は立ち入りを許されない儀式。目撃されているとは思わなかったのかもしれない。
「……すまない」
「なにが神聖な儀式よ! 皆、若い女の子を抱きたいって汚い欲望を満たしたいだけ! 汚らわしい!」
夫の頬を、私は思い切り殴りつける。
「……秋乃」
「こんな村……来なければ良かった……」
私は絶望の中、その場で泣き崩れた。
お腹が痛む、それは暴行のせいなのか、流産のせいなのか、私にはもう分からなかった。
「約束する! もう二度とあの儀には参加しない! 僕にとって、君が一番だから! だから、だから……」
「もう遅い、遅いの……もう、お腹の子は……」
ゆっくりと泣き崩れる私を、夫はぎゅっと強く抱きしめた。
それから私は火村家に戻り、療養することとなった。
しばらくは夫が一人で診療所での仕事をこなす事となったが、顔を合わせる機会が減る分、私としては助かった。
もう、夫の顔を見たいとすら思わない。私の知る夫は、もういないのだから。
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