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矢代は、冷蔵庫やストッカーの在庫から、酒のつまみっぽいものをひねり出した。
カマンベールチーズ、ミックスナッツ。冷凍のアスパラとソーセージのソテー。冷凍食品のエビ蒸しギョウザ。
クラフトビールの小瓶を開けて、何の乾杯だかわからない乾杯をした。
「あ、これ美味しいです。アスパラ炒め」
「まあ、こんなの失敗する方が難しいでしょう」
「いやいや、塩加減がちょうどいいです」
森谷湊は、よく食べてよく飲んだ。
クラフトビールの飲み口が爽やかで軽かった事もあり、いつの間にかテーブルに空き瓶が並んでいる。
「矢代せんせい、俺ね、本当に今日、告られると思ったんですよ?」
「ハハハ」
「笑わないでくださいっ」
バシッと、結構な力で背中を叩かれた。
森谷湊はいつの間にか、対面のソファーから矢代のすぐ隣に移動して来ていた。
「うぬぼれてるって、思います? ......思いますよね」
「いや、思いませんよ」
「でも、本当に。俺ね、わかるんです。好き好き光線」
「光線」
「おかしいなあ。感じたんだけどなあ。大ハズレで恥ずかしい。死にそう」
森谷湊は、パタンとテーブルに突っ伏してしまった。まずい。飲ませ過ぎただろうか。
「矢代せんせい」
「何です?」
「俺が、バイだって、知ってますよね?」
「あ、......はい。知ってますよ」
「矢代先生は、違いますよね。なのに、グイグイ行っちゃって、ごめんなさい。......嫌いに、ならないでください」
「なりませんよ」
森谷湊は、矢代の言葉に反応しなかった。
少しの間、放っておいてやるのが優しさかもしれないと声を掛けずにいたが、しばらくして気がついた。
森谷湊は、寝落ちしていた。
午後から用事があるような事を言っていた気がするが、この忙しい人気俳優に小一時間ぐらいの休息は、必要なのかもしれない。
矢代は、寝息をたてる森谷湊の背中に、そっと毛布を掛けてやった。
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