chapter.11

6/11
前へ
/107ページ
次へ
矢代は、冷蔵庫やストッカーの在庫から、酒のつまみっぽいものをひねり出した。 カマンベールチーズ、ミックスナッツ。冷凍のアスパラとソーセージのソテー。冷凍食品のエビ蒸しギョウザ。 クラフトビールの小瓶を開けて、何の乾杯だかわからない乾杯をした。 「あ、これ美味しいです。アスパラ炒め」 「まあ、こんなの失敗する方が難しいでしょう」 「いやいや、塩加減がちょうどいいです」 森谷湊は、よく食べてよく飲んだ。 クラフトビールの飲み口が爽やかで軽かった事もあり、いつの間にかテーブルに空き瓶が並んでいる。 「矢代せんせい、俺ね、本当に今日、告られると思ったんですよ?」 「ハハハ」 「笑わないでくださいっ」 バシッと、結構な力で背中を叩かれた。 森谷湊はいつの間にか、対面のソファーから矢代のすぐ隣に移動して来ていた。 「うぬぼれてるって、思います? ......思いますよね」 「いや、思いませんよ」 「でも、本当に。俺ね、わかるんです。好き好き光線」 「光線」 「おかしいなあ。感じたんだけどなあ。大ハズレで恥ずかしい。死にそう」 森谷湊は、パタンとテーブルに突っ伏してしまった。まずい。飲ませ過ぎただろうか。 「矢代せんせい」 「何です?」 「俺が、バイだって、知ってますよね?」 「あ、......はい。知ってますよ」 「矢代先生は、違いますよね。なのに、グイグイ行っちゃって、ごめんなさい。......嫌いに、ならないでください」 「なりませんよ」 森谷湊は、矢代の言葉に反応しなかった。 少しの間、放っておいてやるのが優しさかもしれないと声を掛けずにいたが、しばらくして気がついた。 森谷湊は、寝落ちしていた。 午後から用事があるような事を言っていた気がするが、この忙しい人気俳優に小一時間ぐらいの休息は、必要なのかもしれない。 矢代は、寝息をたてる森谷湊の背中に、そっと毛布を掛けてやった。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加