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森谷湊はソファー脇に置いたボディーバッグからスマートフォンを抜き取り、画面に顔を近づけた。
「あー。すっぽかしちゃった」
「すみません、俺も飲みながら寝ちゃって」
「いいですいいです。たいした用事じゃないから。ゴメンネってライン入れとけば」
そう言いながら森谷湊はちょいちょいっと画面を操作して、スマートフォンをバッグに戻してしまった。
「矢代先生んちの居心地の良さ、ヤバい。このまま夜まで居たら、迷惑ですか?」
「......それは、構わないですよ」
「ホントに?」
「元々の用事は、何だったんですか?」
「デートです」
「......」
「そういう顔」
「はい?」
「そういう顔するから、誤解するんじゃないですか、もう。あっ先生、コーヒー淹れていいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
森谷湊はパッと立ち上がると、キッチンに向かった。
それより今、どさくさ紛れに言われた事が矢代には引っ掛かった。
そういう顔?
「えーと、豆ってどこですか?」
「あ、」
キッチンカウンターのコーヒーマシンの前で、森谷湊はキョロキョロしている。
矢代は傍に行き、カウンター下の引き出しを開けて、豆の袋を出してやった。
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