chapter.11

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「ありがとうございます」 「森谷さん」 ん? という顔で、森谷湊が見上げて来た。 「俺、さっき、そんなに変な顔しましたか?」 「え? ああ。デートって言ったら、ちょっと」 「ちょっと?」 「不満そうな」 ざらっとマシンに豆を仕掛けながら、森谷湊は笑って言った。 「え、や、そんなはずは」 「じゃあ、俺の自意識過剰。ごめんなさい」 慌てて否定する矢代の言葉に、森谷湊は拍子抜けする程あっさり前言撤回して謝った。 その無かった事にする態度に、釈然としない気持ちが湧き上がる。 「いや......。不満というか、」 デートと言われて、何も思わなかったと言ったら嘘になる。矢代は言われた瞬間、確かに思ったのだ。 「約束の時間を過ぎて『まあ、いいや』で済ませられる相手と、デートするなよ。とは、同じ男としては正直思わなくは、」 「わあ、怒られた」 「あー、すみません」 「矢代先生は、本当に大好きな人としか、デートしない?」 「......まあ、......ですね」 「かわいーなー」 「おっさんを、からかわないで下さいよ」 「いや、素敵ですよ。矢代先生と恋愛する人は幸せですね」 そこで森谷湊がマシンのスイッチを入れ、コーヒー豆を挽く音で会話は中断された。 その音が、ようやくおさまって来た時。 「白状します。今日のデートは身体目当て」 26歳の告白に、35歳が絶句してしまう。 矢代はいくら何でも、そこまで赤裸々な話は求めていなかった。 「もう、そういうのやめますね」 「えっ、俺が言ったからですか?」 「そうです」 自分の言葉が、森谷湊を変えてしまった。 困惑した。 そうしろ、と言ったつもりじゃなかった。 そう思いながら、自分の中を満たす満足感のようなものは何だろう。
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