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「叱っても、聞いてるんだか聞いてないんだか」
思わず担当相手にぼやくと、彼はもっともな事を返した。
「矢代先生、若いお父さんだから」
矢代は今、35歳。
16歳の悠斗に威厳を示すのは、確かに無理があるのかもしれない。
「これから、忙しくなりますよ。取材も増えますし。テレビにも、出てもらう事になります」
「え、テレビ?」
テレビ出演は、今までに何度かある。
しかし口下手な矢代は、カメラの前で思った通りに喋れたためしが無い。
出演した番組を後から観て、ぎこちないロボットのような自分の姿に死にたくなるのが常だった。
正直、これ以上黒歴史を更新するのは遠慮したいが、そうも行かないだろう。
原田は目をきらきらさせながら、長身の身体を乗り出すようにして言った。
「がっちりサポートして行きますから、頑張りましょうね、先生!」
「わかりました。......よろしく頼みます」
もう、この企画は動き始めている。矢代は、流れに任せるしかないと覚悟を決めた。
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