chapter.1

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同業者である友人の作品がやはりテレビドラマ化された時、そのあまりにもいい加減な出来に原作者当人が不満たらたらだったのを思い出す。 基本設定すら改ざんしたドラマはまるで原作とは別物で、主演の若い俳優の演技も、決して褒められたものではなかった。 何しろ、原作のキャラクターのイメージからかけ離れていた。 『小説みたいな恋』の主人公は、アラサーの男性作家・丹羽晴生(にわはるき)。 そこに駆け出しの女性編集者・東谷(とうや)ユキと、作家に心酔する男性ファン・本城凪(ほんじょうなぎ)が絡む。 男性作家を巡っての三角関係には、いわゆるBL要素も含まれていて、SNSでは大騒ぎになった。 しかし実際に読んでみると、それは決して奇をてらう為の設定ではないとわかる。 等身大の登場人物達の恋愛模様は、読者の心を掴んだ。 主要キャラクターである3人のキャスティングが、このドラマのキモとなるのは、間違いないだろう。 原作者の矢代としては、同性である作家に恋をしてしまう男性ファン・(なぎ)役が気になると言えば気になる。 出来ればあまり悪目立ちしない、演技力がある俳優に演じてほしいが、それは贅沢なのかもしれない。 矢代にはキャスティングに口出しする権限は無く、口出ししたいとも思わなかった。 映像の世界には、映像の世界のプロ達がいる。彼らに全て委ねよう。そう思った。 担当編集者である原田からメールが来たのは、それから二週間後の夜の事だった。 雑誌の連載コラムの原稿を書き上げ、原稿をメールに添付して送信した時、着信メールに気がついた。 件名は「キャスティング決まりました」
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