chapter.1

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開いた本文には、主要キャラクター3人の名前があった。 丹羽晴生役・田島智也(たじまともや) 東谷ユキ役・端島唯(はしまゆい) 本城凪役・森谷湊(もりやみなと) あまり俳優に詳しくない矢代は、字面を見てもピンと来ない。 主人公の男性作家役の田島智也は、確か医療ドラマでブレイクした俳優だ。 年齢的にも役柄に近く、ちょっとかっこよ過ぎる気はするが演技派だし、いい感じだ。 女性編集者役の端島唯は、さっぱりわからない。後でググろう。 問題は、男性ファン役の森谷湊だった。 森谷湊。 知っているような、知らないような。 これもググるしかねぇか、と思った時。仕事部屋のドアがノックされた。 「おとーさん、コーヒー淹れたんだけど、飲むー?」 「......くれ」 悠斗が頼んでもいないのに気を利かせて、コーヒーを淹れて運んで来た。要は、何かの頼みごとだ。 コーヒーを仕事机の上に置いた悠斗の用件は案の定、経済的援助のお願いだった。 急な出費が重なってピンチなんです、と息子は切々と訴えた。 「来週バイト代出たら返すから、お願いします!」 「無駄遣いするなよ」 「あざっす!」 財布から出した高額紙幣を渡すと、雑なお礼と一緒に、手を合わせて拝まれた。 一人息子に甘いのではないか、と近しい人間に言われる事がある。 2人暮しには広すぎる庭付きの一軒家は、悠斗の為に買ったようなものだ。 2階の子供部屋は、その上の屋根裏部屋に続いていて、同級生達に大人気だった。 小遣いは気持ち少なめに設定しているが、理由に納得さえすれば追加してやるシステムだ。 父子家庭の引け目から、悠斗には不自由させたくないという思いが、矢代の中で強い。 これが正解かと訊かれても、わからない。 そもそも子育てに、絶対に間違いの無い正解なんてあるんだろうか。
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