chapter.1

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ホクホク顔で紙幣をハーフパンツのポケットにしまい込む悠斗を見ながら、矢代は不意にメールの事を思い出した。 「あ、そうだ。お前、森谷湊ってわかるか?」 「森谷湊?ああ、俳優の?」 ググるより息子に訊いた方がてっとり早いし、感触が掴める。 矢代は楽をする事にした。 「それが何?」 「森谷湊が『小説みたいな』の凪役に決まったんだと」 「凪って...。作家先生を好きになっちゃう彼?」 「ああ」 「ええええええー!?」 矢代の「ああ」と言う返事は、途中で掻き消えた。 それぐらい悠斗の声は大音量で、仕事部屋内で跳ね返り響き渡った。 家の防音は完璧だが、それにしたって人の真横で叫んでいいという訳じゃない。 「おま、声、でか過ぎ...」 「うわ、森谷湊って......ガッカリ感パネェんですけど......」 悠斗はそう言って、仕事机に突っ伏してしまった。つまりそれが答えだったが、矢代は念の為確認した。 「何だ? そんなにひどい俳優なのか?」 「ひどい。少なくとも俺はアイツ嫌い」 寛容な性格の悠斗が、ここまではっきり言うのはめずらしい。 「顔が嫌いなのか?」     
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