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ホクホク顔で紙幣をハーフパンツのポケットにしまい込む悠斗を見ながら、矢代は不意にメールの事を思い出した。
「あ、そうだ。お前、森谷湊ってわかるか?」
「森谷湊?ああ、俳優の?」
ググるより息子に訊いた方がてっとり早いし、感触が掴める。
矢代は楽をする事にした。
「それが何?」
「森谷湊が『小説みたいな』の凪役に決まったんだと」
「凪って...。作家先生を好きになっちゃう彼?」
「ああ」
「ええええええー!?」
矢代の「ああ」と言う返事は、途中で掻き消えた。
それぐらい悠斗の声は大音量で、仕事部屋内で跳ね返り響き渡った。
家の防音は完璧だが、それにしたって人の真横で叫んでいいという訳じゃない。
「おま、声、でか過ぎ...」
「うわ、森谷湊って......ガッカリ感パネェんですけど......」
悠斗はそう言って、仕事机に突っ伏してしまった。つまりそれが答えだったが、矢代は念の為確認した。
「何だ? そんなにひどい俳優なのか?」
「ひどい。少なくとも俺はアイツ嫌い」
寛容な性格の悠斗が、ここまではっきり言うのはめずらしい。
「顔が嫌いなのか?」
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