第1章 0節 閉ざされる世界

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第1章 0節 閉ざされる世界

 両親が私の9歳の誕生日に与えたものは光のない世界と孤独だった。  目の前に広がるのは大量の死体と燃え広がる炎に飲み込まれる私の村。  これは夢、毎年毎年生理のように幾度となく来る誕生日に、  私は生まれることを感謝しながら生きていることを後悔している。  私は背をピンと伸ばし歩き出す。  煙の臭いもしなければ人の血と焼けた肉が交わる嫌な臭いもない。  辺りを見回すと死体たちがこちらに対して視線を向けてくる。  幼い時は彼らが襲い掛かってきて恨みつらみを吐きながら私を殺しにかかってきた。  けれど成人を過ぎてからこうやって睨むことしかしてこない。  苦しそうだと何度思ったことか、助けてあげたいと幾度となく願っただろうか。  けれど私は今になっても彼らに対して何かをしてあげることはない。  いくらあがこうともこれは夢なのだ、朝になれば雲散霧消する運命なのだ。  私は彼らを気にも留めずにただ何も考えず、歩き続ける。  気付くと燃え続ける自分の家の中にいた。  目の前のテーブルの下には倒れる妹に覆いかぶさるようにしている姉がいた。  勿論のことながら二人とも死んでいる。  姉の背には細身の剣が自身の刀身を燃える炎でユラユラと紅く煌めかせていた。  姉を貫通して妹にまで達していたその剣を見る。  刃こぼれが多く見える、あまり手入れが行き届いていない粗末なモノだとわかる。  私はその場を後にして奥に続く廊下を進む。  どこの部屋も火の手が大きく回り煙が充満していた。  加えて廊下は大人が横並びに通れるかどうかという狭さと窓がない悪条件。  そのためより一層煙は逃げ場を失い廊下の見通しは背の高い大人にとっては最悪だ。  実際自分が味わってみると殆ど何も見えない、煙の臭いまであったらより不快だろう。  そして私は自分の扉の取っ手に手を掛けた瞬間に後ろの壁に激突した。  幼い私が飛びついてきたのだ、その手には台所からくすねたナイフがあった。  それを両手でしっかりと握り、それを首に突き刺す。  当然私ではなく部屋に入ろうとしていた男にだ。  そして男の首の骨が折れるのを確認して幼い私は玄関の方にしゃがみながら向かった。  私も男の死体を一瞥してから幼い私の後についていく。  叫び声が聞こえた、姉と妹の死骸を見たのだろう。  私は溜息をついて尻もちをつく幼い私の隣に立った。
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