第1章 0節 閉ざされる世界

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 私のいるこの場所の近くには名所になるぐらいの大きな川がある。  そこの流れつく先には『龍の巣穴』と呼ばれるカルデラからできた巨大な滝壺があり、  遥か昔ここに龍が中に入っては消えていったという言い伝えから名前が来ている。  実際にここに落ちた人間が助かった者を見たことがないと言われている為、  私がいる現在では私の村共々立ち入り禁止となっている。  パチン、パチンと留め金を留める音が聞こえる。  男が剣を抜ききった後に二つの角が垂れ下がった独特の兜を被るのが見えた。  これでは夢の中に干渉できない私ではどうすることもできない。  私は静かに幼い私の後ろに立った、事の顛末を見るのにはこの角度が良い。  幼い私は茂みの中から飛び出して考えなしに男に突進する。    ああ、実に愚かだ、相手の実力差も分からずに突っ込むなんて。  男は私を蹴り上げ、そのまま私の胸倉を掴んでそのまま投げた。  幼い私はちょうど川の方向に投げ飛ばされ、川に落ちた。  この川の深さは大の大人が胴までつかるほどあり幼い私には川底に足が届かない。  しかも川の流れが速いため子連れの観光客の子どもが流されて死ぬ事件が多い。  そのことを知っていた幼い私は急いで潜り、川底に沈んでいる鎖を掴む。  事件が起きた後に、この川で溺れた時の備え、と村長が村の全員に知らせていた。  けれども川の流れが幼い私の腕力を越えるほどの力で流れていた。  流石にこのことは知らなった、試しに子どもを溺れさせようと言う親はいない。  川の流れに負けて藁にも縋る思いで掴んだ鎖を幼い私は放してしまう。  だが結果的にはそれが父を飛び込ませる時間を稼いだことは間違いない。  飛び込んできた父親の腕に抱かれ水面から顔を出した幼い私は呼吸と共に安堵する。  安堵をして私は気付いた、まだ流されていることに。  大人なら確実に立てる深さなのにどうして父親も流されているのだろうか。  「ごめんな、父ちゃんが冒険者だったら片足でも立てたんだけどな」  後ろから聞こえるその声を聞いて幼い私は揺らめく水面を見る。  月明かりが幸いにも川を照らしていてそれを確認できた。  父の片足から赤い血が川の水に混じって滲んでいた。  「うわあああああああああ!!!!!!!」  無意識に幼い私は叫んでいた。
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