第0章 1節 まず世界を創造しよう 

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 東京駅の中央線に乗って一番端にある駅。  そこは私の昔の最寄り駅で、私の一番馴染み深い場所。  初めて遠足に行く時、    少し遠くの中学に進学した時、    新幹線を使って遠路はるばるやって来た祖父母を迎える時、  好きだったあの子を迎えに行く時………思い出せばキリがない。  そこから少し歩いて踏切を渡ったところに図書館がある。  私にとってそこは馴染み深い場所ではない。  ただそこに昔からあっていつも駅に向かう時にチラリと見る程度の場所。  けれど夏休みの宿題やレポートを書くのにはお世話になった場所。  そこで私は偶々ある一冊の本を見つけてしまった。  資料となる本を探して歴史のジャンルが置いてある棚を見ていた時のこと。    棚の中段の、隙間なく並んでいる本の上に古い本が置いてあった。  引き抜いて背表紙を見ると英語でAstral Groundと書かれていた。  表紙は地球の上に太陽ではなく一つの黄色に輝く星と宇宙が描かれていて、  裏表紙にはその星が真っ黒な中に赤く輝いている状態だった。  私はそれを開ける前に一先ず受付カウンターに行った。    背表紙に番号が書かれた数字と平仮名が書かれていないのに気付いたからだ。  それにバーコードも付いていないから完全に図書館の本ではない。  受付のおばさんに本を見せてこれは何の本と聞くと、    「ああ、『坊ちゃん』。懐かしいわ、夏目漱石の作品ね」  と言われて目を白黒させる。  近くにいたもう一人のおばさんに聞くとこちらは『舞姫』と言った。  私は二人を見てもう一度同じ質問をしても二人は同じ答えだった。  矛盾が起きていない、そのことに私は衝撃を受けた。  何故なら答えた二人とも相手の声が聞こえたにも関わらず、  自分の主張を変えていないのだ。  試しに私はこれを借りたいと言った。  おばさんは何もない裏表紙の所にバーコードリーダーを当てた。  ピッという音が鳴り、なんと借りることができたのだ。  私は自分のレポートが散らかる机に戻ってその本を開く。  1ページ目に『世界の名前』と書かれた部分があったがそれ以外は白紙だった。  不気味だ、と思うと同時に興味が湧く。  子供の絵描きをする時のような気分だった。  私は試しにペンで世界に名前を付けた。    
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