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先生の天幕を出る時に前から小さな女の子の声がした。
「あ、イリスだ!」
「どうも、ローツェちゃん。今日は朝から元気いっぱいだね」
「おはようございます、イリスさん。今日も診察ですか」
ローツェとその母のラングルトさん、先生のところのお得意さんだ。
別に今の彼女らに病気はないのだが、
ローツェの体が弱いため定期的に診察しに来ているのだ。
「珍しいですね、こんな早く診察に来るなんて」
「ええ、ローツェがイリスさんを応援したいって言って早起きしたんですよ?」
お母さん!!と大きな声を出すローツェ、怒っているのだろうか?
これは喜んだ方が良いのかよくわからないのでとりあえず笑い顔を作ってみる。
「イーリース―?」
ははは、愛想笑いなんてしない方が良いな。
すっと前に手を伸ばすと何もない空間につやつやした髪の感触が現れる。
それを軽く撫でるとローツェの嬉しそうな声が聞こえた。
(………そうか、褒めれば良かったのか)
自然と笑みがこぼれると同時に瞼の裏に妹の顔が浮かび上がる。
するとローツェの両手が私の手の上に重なる感覚がする。
大丈夫、イリス?と声がかかって私は何かが頬を伝う感覚に気付いた。
「だ、大丈夫だよ?うん、大丈夫だから………」
ローツェの頭から手を放し、自分の目に手を当てる。
あの夢を見た後だからだろうか、それともまだこの目に未練があるのだろうか。
「イリスさん、辛いことがあったらいつでも相談してください」
私、力になりますからとラングルトさんが言うのに合わせて、
ローツェも私も!!私も!!と元気よく答えた。
この親子の方がもっと大変な思いをしているはずなのに………。
そう感じて私は顔を伏せて一度呼吸を整えてからありがとうと言って、
「でも大丈夫です。私はこれでも意外と頑丈ですから」
さっき泣いてたのに~?とローツェに言われて何を!!と返す。
ラングルトさんはそれを見てクスクスと笑っている。良し、これでいい。
「それじゃあ私はこれで」
「はい、お気をつけて」
「あ、そうだ!イリス!!」
とローツェは元気な声で立ち去る私にこう言った。
「私、将来イリスのお嫁さんになってあげる!!」
私は振り返り、驚いた表情をしたが複雑な表情をして考えとくと答えた。
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