第1章 1節 持つべきものは

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 ロープウェイがハルオンまでの道の半分ぐらいまで来たところで、  「………ゲーレ、いるか?」  小言のように名前を呼ぶと隣から声が聞こえる。  「ほっほっほ、いますぞ?」  今日は老人か、と思いながら素早く要件を話す。  「ハルオンにいる警備兵の数を先に行って調べてくれないか?」  理由は?ゲーレは自身に利得がない場合は行動しない、だからいつも聞き返す。  「明後日にパレードがあるだろ、今の城主、ラッテルゲル=トイの」  ははぁ、なるほどと納得するゲーレ。  ラッテルゲル=トイは明後日で還暦を迎える。  これでラッテルゲルは隠居をするか誰かに王位を譲るかの二択が出来るようになった。  もしここで隠居をすれば国の情勢が大きく動くことになる。  このことが一番響くのはトイ城周辺に住んでいる人間ではなく、我々なのだ。  ハルオンはトイ城と各国の均衡によって成り立っていると言っても過言でない。  しかもハルオン自体がトイ城の領地内にあるのだから実質トイ城の一部と考えられる。  そこに例の如く隠居でもされれば崖の住人が総出で暴動を始めるだろう。  何せ物価の変動、商人の移動の制限、それに国同士での新たな取り決めをする必要がある。  その為前々からハルオンではこの区域のみを完全な独立都市とする提唱がされている。  「だから警備兵もといハルオン独立兵の動きを見てこいと」  私が静かになずくとほっほと言う音を残して隣にいたであろう老人の気配が消えた。  (………本当に仕事が早くて助かるな)  杖を握り直し、そのことに思考を巡らせる。  ハルオン独立兵は反旗を翻す組織力は無いが街を自衛するだけの力は備えている。  だが所詮自衛するだけだ、それ以上の問題を解決する力は持っていない。  (独立なんて考えが生まれてもそれを実行できるだけの行動力が無いと……)  意味がないな、と考えていると不意に一つの文節が頭の隅をかすった。  禿頭に………………………飾れなきに…………………………………が。  ………まだ足りないな。  歌にしようにも言葉が足りずかといって詩にしては意味が組み上がってない。  私は今日もいつもの歌を歌おうとしみじみと思い、背もたれに身を任せた。  そこに弦楽器の堅さが背中に伝わりモヤモヤした気分のままハルオンに着いた。
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