第1章 1節 持つべきものは

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 ハルオンは毎日人が行きかいしているから常にどこもかしこも混み合っている。  特にハルオン中央公園で安売りのバザーが催される時は蟻が入れないぐらいだ。  今日は特に何もないがすれ違う人たちの会話から皆浮足立っているのが判る。  特に話題に上がっている内容は王子たちの話と王女の婚姻の話。  中でも第三王子であるハラディアル=トイが次の王に相応しい、というのが多かった。  ハラディアルは国民からの信頼が厚く、事務がない時には街に姿を現すらしい。  そこで子どもの遊び相手になったり、老人たちの世話をしたりしているそうだ。  私はハラディアルからの手厚い保護を受けたことが無いからどうにも信用できない。  まあ崖に住んでいる人間にまでその慈悲深い行為をする余裕はないのだろう。  ロープウェイを降りてそのままハルオン南広場に出ると妙に騒がしい感じがした。  杖を一度地面に強く当てて周りの音を注意深く聞き分ける。  大半が民衆の声に遮られてしまったが奥に馬の鳴く声が聞こえてなんとなく察した。  ハルオンでは基本犬や猫などの愛玩動物以外の動物の世話は禁止されている。  たまにグレイスバット(蝙蝠似の魔物)やバーニングベア(無進化魔術付与)などの  魔物を飼っている人もいるらしいが決まってその飼い主は外国の商人なんだそうだ。  話を戻すと馬は城に住んでいる人間しか飼っていない。  そのため奥にいるのは王族か貴族の誰か、ということになる。  (第一、第二王子は確か外国に出向いている……となると………)  トイ城の記念日でもなく、先に行われるパレードの予行演習でもなく、  今日みたいな何もない日にやってくる王族は完全に物好きである。  「やあやあ皆様!俺様の雄姿を見に来て下さり大変に!ありがとうございます!!」  その声を聞いて私は杖を足の間に挟んで軸にし一回転した、ただの回れ右だ。  「う~む?今誰かにすごい視線で見られてた気がしたのだが~?」  マズイ、人混みから離れるのは危険だ。  杖をぶんぶん振り回してワザと近くの人に当てて周りを確認する。  こっちの方が迷惑は掛かるが手っ取り早い。  「む?近くで誰か助けを求める声が聞こえるぞ?」  それは私の心の声だ、第5王子のあんたに会いたくない私の心の声だ。  「む!見つけたぞ、待ちたまえ!!我が親友イリスよ!!」
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