第1章 2節 弱者の憂鬱

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第1章 2節 弱者の憂鬱

 人混みを抜けて少し歩くと色々な音が聞こえてきた。  この場所はハルオンの玄関と呼ばれる場所、通称『ゲート』だ。  ここで崖の住人は物を作ったり靴を磨いたりして働く。  私の場合は背に背負っている弦楽器で稼ぐ、まあそれしかないのだけれども。  別にここだけが稼ぐための場所ではないが私の場合ここが良いのだ。  理由はトイ城外からハルオンに初めてやって来る人間が入ってくるから。  ハルオンに行き来するのは商人だけではない。  近くの村の農家だったり奴隷商だったりはたまた外国の人間が来る。  他にもハルオンには『テラス』と先程いた『ロビー』がある。  だけれども私には聞いてくれる常連が欲しいのだ。  別にサクラでも構わない、ただ聞いて1ハルオン(=10円)稼げればいい。  『ロビー』には人の往来があるのだが時間帯において激しいのが特徴で、  あそこで稼げるのはスペースはとるが目を向けさせることのできる大道芸と、  スペースはとらず確実に収入が得られる屋台のどちらかだ。  ラングルト親子は屋台で生計を立てている。  しかも結構人気で連日列ができるほど人が集まる。  おかげで生活するには困ってはいないらしい。  『テラス』は観光名所だ、カップルが多い。  私のような演奏をする人間が多くいるが私はあそこを好まない。  カップルの仲を引き立てるためだけに自分の曲を使われたくはないからだ。  それにあそこで稼げるのは弦楽器ではなく管楽器だ、行っても無駄。  他にあそこで稼いでいるのは詐欺まがいのアクセサリー売りとかが多い。  その中にはアクセサリーに呪術を込めて売りつけるヤツもいるらしい。  さて、この『ゲート』では「それ以外」が集まっている。  例を挙げると先程の靴磨きに簡単なマジックをする手品師や人形師、  あと絵を描いて売っている人間もいるみたいだが私には関係ない。  先生もこの場所で自分の作った薬を売っているそうで風邪薬が良く売れると言ってた。  地面が煉瓦から土に変わったので私は近くの商店の壁に寄りかかる。  そして壁を伝いながらゆっくりと自分の持ち場まで踏みよる。  ここでは崖のルールが適用されるが一つ追加されるものがある。  「よお、イリス。随分疲れてるじゃないか」  場所の確保を依頼することができる、そういうルールだ。
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