第0章 2節 次に歴史を築こう

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 ジリリリリン………ジリリリリン………  どこかから聞いたことがある音が聞こえてきて、顔を上げる。  そこには一台の何の変哲もない黒電話があった。  ここは図書館、黒電話の呼び出し音なら確実に響く。  (……取らなきゃいけない、みたいだな)  周りにいる人間の様子を窺うと黒電話の音に反応したようには見えなかった。  恥ずかしいけれど一度机を叩いてみる。  殆どの人がこちらに視線を送るのを確認してから手の平を確認するフリをする。  こうすれば蚊か何かが机にいて叩いた、と捉えることができる。  そして舌打ち交じりに訪れた図書館の静寂の中で私は確信した。  (机を視界に入れたのに黒電話の存在を気にしてなかった、てことはやっぱり……)  ため息交じりに先程から五月蝿く鳴る黒電話の受話器に手を伸ばす。  電話線は見えないし、いつの間にか目の前にあったこの電話。  かなり怪しいが私以外にこれの存在には気付けていない以上私が出るしかない。  受話器を持ち上げ耳元まで持って行きはいもしもし、と受け答える。  次の瞬間、背中に水気を含んだ冷たい風が吹き抜け、  それを追いかけるように膨大な映像が私の周りをドーム状に囲んでいた。  目に映る近い映像を見ると廃墟に住む盲目の吟遊詩人が映っていた。  他にも剣を片手に戦場を走る兵士に湿った墓地から蘇る死人、  砂漠を優雅に泳ぐサメ、空駆ける青い龍とその眼前に広がる浮いた島々が映る。  「はは…何なんだよ、これは……」  フィクション、それも絶対にありえない世界が自分の周りに広がる。  そう思うとゴクリと息をのんでしまう。  興奮している、そう素直に実感できた。  これはリアルだ、本とかアニメとか映画じゃない。  今、私の、目と鼻の先に、手が届く所に、想像していた世界が……!!  そう思って手を伸ばすとその映像にピシッとヒビが入った。  反射的に手を引っ込めてもそのヒビは止まらず、少しずつ映像を割っていく。  「あ、ああ……」  ヒビは際限なく広がっていき、まだ確認していない映像にもそれは届く。  私は何も考えられず、ただ呆然とヒビが入るのを目で追っていた。  そしてついに、決壊した。  ガラガラと、バラバラに、それらは砕け散る。  全てが割れ落ちると私はらしくもないぐらい大きな声で、叫んでいた。
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