第0章 2節 次に歴史を築こう

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 私は思わず立ち上がり椅子の後ろの本棚の隙間を走った。  壁を確認したかった、それさえ見つかれば壁を伝って出口を確認できる。  そう思って全力で壁を目指して走った、走って、走って、ひたすら走った。  息も絶え絶えになって一体どれくらい走ったのか分からないぐらい走って、  変わらない本棚の壁をまっすぐに進んでいくと目の前に光が見えてきた。  私は嬉しさのあまり思わず笑いながらその光る場所を目指した。  これは悪い夢だ、そうだ、きっとそうに違いない。  視界が汗で曇り久々の運動に膝が遂に音を上げて私は光る場所の目前で倒れた。  多分光ってるから窓だろう、いやもしかしたらガラスの扉があるのかもしれない。  そう思い顔の汗を拭ってそこに広がるものを見た。  照り付ける日差し、光に舞う埃、そして―――  先程まで自分が座っていた椅子とささくれだらけの不細工な机があった。  この時私は頭の中でふとあることを思い出した。  地球が丸いと知らない時代に人々は地平線の果てを知らなかった。  かの有名な探検家マゼランはスペイン艦隊を率いて世界一周を目指した。  マゼラン自身は途中で戦死したが艦隊は無事世界一周を成し遂げる。  その時に人々は初めて地球が丸いと知り、地平線の果てには海があると知った。  だから何だと自問自答する、そんなことを思い出してなんだというのだ。  後ろから走って行って正面に出た、ただそれだけ………それだけ………?  「―――――。――――――ああああああ!!!!!!」  絶句して思い出したかのように叫んで机に向かった。  ペンケースから消しゴムを取り出して文字を消そうとした。  消せるはずがないとわかっていた、その通りになった。  消しゴムを投げ捨て、消えないボールペンを使って文字を黒く塗りつぶした。  無駄だと分かっていた、塗りつぶした部分だけが本に染み込んで文字は浮かび上った。  それも投げ捨て本を持ち上げてそのページを破ろうと思った。  本は持ち上がったのだがページは破れなかった。  本を閉じて正面の本棚に投げつける、  狙いは大きく外れ本棚と本棚の間の通路に本は飛んで行った。  涙が溢れ、胸が締め付けられるように痛くなって、子どものように泣き喚いた。  ここに壁はない、地平線が丸いように私が作った世界にも壁はないのだ。
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